第1期第1回新規助成(2012年04月01日から1年間)
医療が行き届かない震災直後の被災地を支援する全国の民間医療支援団体の活動を助成しました。また、震災後に立ち上がったばかりの新しい現地NPOの仮設住宅での生活支援や就労支援のイニチアチブを、意気込みと発想に期待して助成しました。
採択事業一覧
団体名 | 事業名 | 活動場所 | 助成額(万円) |
---|---|---|---|
特定非営利活動法人 MMサポートセンター | 原発避難の発達障害児への継続支援(電話相談・訪問相談) | 宮城県名取市 | 500 |
在宅看護研究センターLLP | セカンドハウス「よりどころ」の運営と存在価値の追究 〜いのちと心の再生をめざして〜 |
福島県内 | 700 |
特定非営利活動法人 こども福祉研究所 | 明日を担う岩手県山田町の子どもたちのための 学習支援・軽食提供・地域交流事業 | 岩手県山田町 | 560 |
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会 東日本大震災支援プロジェクトPCAT | PCAT 宮城県・福島県支援プロジェクト | 福島県宮城県 | 1000 |
特定非営利活動法人 風に立つライオン | 岩手県陸前高田市および気仙医療圏における 診療車による産婦人科巡回診療 | 岩手県陸前高田市ほか | 900 |
特定非営利活動法人 子どもの村福岡 | SOS子どもの村東北(仮称)設立支援事業 | 宮城県内 | 800 |
特定非営利活動法人 ワンファミリー仙台 | ひとり、ひとりの状況に応じた仮設住宅入居者への就労支援事業 | 宮城県仙台市 | 900 |
特定非営利活動法人 中之作プロジェクト | 中之作 直してみんかプロジェクト | 福島県いわき市 | 800 |
特定非営利活動法人 ピースジャム | ジャム作りによる、乳幼児を抱える母親の雇用創出と コミュニケーションの場の提供 | 宮城県気仙沼市 | 800 |
特定非営利活動法人 土佐の森・救援隊 | これまでの未利用の森林を活用した、被災者雇用拡大事業 | 岩手県大槌町 | 950 |
特定非営利活動法人 まきばフリースクール | 暮らしの便利屋さん | 宮城県石巻市 | 500 |
特定非営利活動法人 気仙沼復興商店街 | 気仙沼復興商店街⇔周辺仮設住宅巡回バス | 宮城県気仙沼市 | 800 |
一般財団法人 たんぽぽの家 | 元町コミュニティスペース「ここさこらいん」運営支援事業 (障害のある人×アート×福祉による居場所づくりモデル開発事業) | 宮城県山元町 | 950 |
概要
助成の趣旨
タケダ・いのちとくらし再生プログラムの一環として、この度の東日本大震災で被災された方々の「いのち」と「くらし」の再生を願い、武田薬品工業株式会社からのご寄付をもとに、被災3県(岩手、宮城、福島県)を主な対象とした民間の支援活動に対して助成を開始します(今後5年にわたって実施予定)。
助成金額と助成期間
助成1件につき上限1,000万円を2012年4月1日から1年間で助成
(最長3年間の継続助成の可能性あり)
助成対象となる活動
- いのちの再生
- 人道支援の視点から、社会的に弱い立場にある被災者(子ども、高齢者、病人、障害者、災害遺児・遺族、経済的困窮者等)が尊厳をもって生きていけるよう、その人権を尊重し、日常生活を支援し、保健・医療・福祉の充実を図る活動。
- くらしの再生
- 復興にむけた基盤整備支援の視点から、被災した人々が生きがいのある暮らしを回復できるよう、生活の場・仕事の場を再建し、生活基盤を整備する活動。なお、これらの活動に関わる調査研究や政策提言活動も対象とします。
応募期間
2011年12月1日(木)〜 10日(土)
応募の傾向
応募総数は131件で、地域分布としては、被災地三県(岩手、宮城、福島)からが59件(45%)となり、その中でも宮城県が37件(28%)と半数以上を占める。全国を見ると東京からの30件(23%)と集中しており、そのほかは広く全地域から応募があった。応募総額は10億4,889万円となり、平均応募額は801万円となった。
法人の傾向としては、NPO法人が56件(43%)と最も多く、それについで任意団体(50件 38%)、一般社団法人(15件 4%)の順となる。被災後に新しく設立された被災地の団体が多く見受けられた。
カテゴリー別応募状況
都道府県別に見た応募状況
(※応募があった都道府県のみ記載)
ブロック | 都道府県 | 件数 |
---|---|---|
北海道 | 北海道 | 3 |
東北 | 岩手 | 9 |
宮城 | 37 | |
山形 | 2 | |
福島 | 13 | |
甲信越 | 山梨 | 1 |
関東 | 茨城 | 1 |
栃木 | 3 | |
群馬 | 2 | |
埼玉 | 4 | |
千葉 | 2 | |
東京 | 30 | |
神奈川 | 5 | |
東海 | 愛知 | 1 |
近畿 | 滋賀 | 1 |
奈良 | 1 | |
大阪 | 5 | |
兵庫 | 5 | |
四国 | 高知 | 1 |
九州 | 福岡 | 3 |
鹿児島 | 2 |
被災地からの応募状況
県名 | 市町村 | 件数 |
---|---|---|
岩手県(9件) | 大船渡市 | 1 |
盛岡市 | 4 | |
遠野市 | 2 | |
一関市 | 1 | |
釜石市 | 1 | |
宮城県(37件) | 名取市 | 1 |
仙台市 | 10 | |
亘理町 | 1 | |
石巻市 | 7 | |
南三陸町 | 4 | |
栗原市 | 5 | |
登米市 | 2 | |
岩沼市 | 1 | |
気仙沼市 | 2 | |
塩竈市 | 2 | |
山元町 | 2 | |
福島県(13件) | 福島市 | 2 |
郡山市 | 3 | |
いわき市 | 4 | |
本宮市 | 1 | |
二本松市 | 1 | |
南相馬市 | 2 |
法人格から見た状況
法人格 | 件数 |
---|---|
一般財団法人 | 1 |
一般社団法人 | 15 |
財団法人 | 2 |
商業協働組合法人 | 1 |
特定非営利活動法人 | 56 |
社会福祉法人 | 2 |
認定特定非営利活動法人 | 1 |
消費生活協同組合法人 | 1 |
学校法人 | 2 |
任意団体 | 50 |
タケダ・いのちとくらしの再生プログラム2012 選考を終えて―改めて実感できた「NPOの知恵と力」
2012年2月17日
タケダ・いのちとくらし再生プログラム選考委員会委員長
(認定特定非営利活動法人日本NPOセンター代表理事)
山岡義典
全国各地から寄せられた131件の応募の中から、今回13件の助成対象を選ばせていただいた。<いのちの再生(人道支援)>で6件、<くらしの再生(復興基盤支援)>で7件、助成総額は1億160万円。1件当たりの助成規模は500〜1,000万円。4月から1年間の活動費用だ。
<いのち>6件のうち3件は医療の支援にあたるもの。被災地域は、もともと医療過疎地域でもあった。そこに津波や放射線の被害が襲い、医療はますます過疎化した。いのちの再生に、外からの医療支援は欠くことができない。東京に拠点を置く「在宅看護研究センターLLP」と「日本プライマリ・ケア連合学会東日本大震災支援プロジェクトPCAT」、それに本部は鹿児島にあるが東京にも拠点もつ「風に立つライオン」、それぞれが福島・宮城・岩手の病院や診療機関と協力し、全国各地から各種の専門職を送り、継続的に支援する。いずれも頼もしい企画だ。他の3件は子どもたちに寄り添うもの。学習支援や軽食提供で子どもたちを応援する「こども福祉研究所」。親を失った子どもたちの新しい里親制度の実現を目指す「子どもの村福岡」。東京と福岡での実践経験をもとに、岩手と宮城で子どもたちと向かいあう。文化や風土の異なる地域社会だけに、着実な、よき「現地化」を期待したい。原発避難で散り散りになった発達障害の子どもたちを電話や訪問で支援するのが「MMサポートセンター」。<いのち>の助成対象で唯一の「現地NPO」だが、組織の拠点は「現地」にはない。福島県の南相馬市から福島市を経て宮城県名取市に移った。そのことによる困難も予想されるが、地道な活動で一筋のつながりを維持することが、どれほど当事者本人や家族の安心につながることだろう。
<くらし>の場合、7件のうち5件が現地NPO。「ワンファミリー仙台」と「まきばフリースクール」は、被災前からの充実した活動実績があり、それを生かして新しい被災者支援に取りくむ。課題もあるが、安心できるプロジェクトだ。それに対し、「中之作プロジェクト」と「ピースジャム」と「気仙沼復興商店街」とは、いずれも震災後に立ち上がった現地密着型の団体で、組織基盤は弱々しく、事業計画も、はっきり言えば頼りない。しかしその意気込みと発想には、それらの不安を越えて賭けてみたくなる魅力がある。起業家精神の大ブレークを期待し、未だ見えぬ可能性への投資として採択することにした。7件のうち2件は外部からの応援NPO。高知を拠点とする「土佐の森・救援隊」と奈良を拠点とする「たんぽぽの家」で、いずれも日本を代表する実力派団体だ。これまでに蓄えた実績と人脈が、被災地の人々と手を携えることで大きな夢の実現に繋がってくる。そんなワクワクとした期待を抱かせてくれる。
「被災地にNPOの知恵と力を」、これが今回の公募のテーマであった。行政でもなく企業でもない、NPOならではの知恵と力だ。知恵だけでは弱々しい。力だけでは荒々しい。1千万円規模だからできる知恵も力もあるプロジェクト、それを期待したわけだが、今回の13件の助成対象は、それに十分応えるものと実感している。
最後に、選考経過について触れておこう。
実は応募は50〜60件と見込んでいた。それであれば多忙な選考委員にも全案件を熟読してもらえる。しかし応募は130件を超えた。そこで急遽、事務局で態勢を整えて一次審査をすることにした。事務局長以下4人のスタッフが数日間籠って全案件を読み込み、助成趣旨や選考基準に照らしてABC評価を行い、結果を持ち寄って評価の高いものから順に61件を選出した。これをもとに、8人の選考委員には「Aを概ね10件程度」としてABC評価を依頼、その結果をもとに1月23日に選考委員会を開催して5時間を超える議論を尽くし、最後は投票によって12件の助成候補と順位付けした4件の補欠を選出した。なお、医療関係者の参加する案件については、武田薬品から参加した委員は一切関与せず、発言もしないこととした。こうして決まった助成候補のすべてと補欠2件に直ちに電話で連絡をとり、事務局スタッフが2人ずつ2組の体制で現地インタビューに散って行った。選考委員会で出された疑問や意見等について確認するとともに、応募用紙の記述からだけでは読み取れない実施体制や実現上の課題を明らかにするためだ。そのインタビュー結果をもとに、1月31日の委員長決裁によって1件の補欠を採択することとして13件の助成対象を決定、各案件の助成金額を確定した。
なお助成金額については、応募額より減額していただいたものもある。助成後にプロジェクトが逞しく育つためには、一定の自己負担や自主財源確保の覚悟や努力も必要との視点から、やや甘さのある使途は割愛してもらった。しかし助成費目については使途の制約を厳しくは設けなかったので、使途は自由で多様である。そのほとんどが人件費や施設の修復費・建設費であるもの、巡回診療車の購入費であるものなど、さまざまだ。選考過程で議論はあったが、これでよかったと思っている。
ともかく、「NPOの知恵と力」が最大限に発揮され、被災された方々の生活再建が1日でも早く進むような助成になればと願っている。
選考委員名簿
- 山岡義典(認定特定非営利活動法人 日本NPOセンター)
- 石井布紀子(特定非営利活動法人 さくらネット)
- 大久保朝江(特定非営利活動法人 杜の伝言板ゆるる)
- 金田晃一(武田薬品工業株式会社)
- 渋澤 健(シブサワ・アンド・カンパニー株式会社)
- 長沢恵美子(一般社団法人 日本経団連事業サービス)
- 藤田和芳(株式会社 大地を守る会)
- 横田能洋(認定特定非営利活動法人 茨城NPOセンター・コモンズ)
いのちの再生:人道支援
特定非営利活動法人 MMサポートセンター
震災後の原発事故によって、多くの人々が住む場所を移転せざるをえなくなった。ADHDやアスペルガーなど発達障害を持つ子どもたちとその家族たちを南相馬市でサポートしてきたのが、この応募団体である。いままで団体が支援していた約80家族の内93%が原発事故による避難を余儀なくされて全国に散らばった。障害のある子ども達にとっては、生活環境の変化にともなう不安定な状態が続いており、家族の不安も大きい。そのような家族の支援を、宮城県名取市に拠点を移し、送迎や電話相談を通じて行っている。今後の方針がなかなか定まらない可能性があるが、発達障害の専門家である代表者等による継続的な相談対応を応援することで、活動の再開に期待したい。
団体概要・事業詳細:特定非営利活動法人 MMサポートセンター
在宅看護研究センターLLP
応募団体は、介護保険制度のない時代から、「病院ではなく在宅での看取り」を重視し、実践してきた。本事業は、福島県内の仮設住宅へ入居中の被災高齢者にとって「第二の我が家」となるセカンドハウス「ここさこらんしょ」を運営するもので、誰もが集える「よりどころ」を目指す。必要に応じたケアも実施するため、既に現地の連携組織である南東北福島病院の協力を得て、同院の総看護師長を始め、訪問看護ステーションの看護師や作業療法士・ケアマネージャー等の必要な職種が加わり活動をサポートしている。今後は現地の看護ネットワークを利用した運営の現地化を検討するとともに、復興特区の申請も視野に入れて持続的な活動を行っていく計画である。なお、法人種別は「LLP」(Limited Liability Partnership有限責任事業組合)のため形式的には営利組織に類するが、その構成組織や活動内容の非営利性が高い団体であるため、本助成の対象とした。
特定非営利活動法人 こども福祉研究所
応募団体は、地域で暮らす子どもの権利擁護やひとり親家庭の自立などのために東京で設立された。震災後は、復興支援活動の過程で二の次になっていた子どもたちの「普通の生活」を取り戻すべく、2011年9月、岩手県山田町の子ども(中・高・高専・大学受験生)が放課後や土曜日に無料で利用できる学習スペース「おらーほ」を作り、軽食を無料で提供してきた。既に利用登録者は120人を超え、毎日30人前後の子どもが過ごす重要な集いの場となっている。また学習スペースと並行して、誰でも利用できる「街かどギャラリー」を設置することで地域の子どもと大人の交流をはかっており、この拠点は山田町復興のシンボルとなる可能性も秘めている。既に現地の町づくりネットワークや商工会との連携・協力体制が構築されていることも、事業展開には大きなプラスとなるだろう。子どもの心に何気なく寄り添い、必要に応じて相談に乗り、温かく見守る。この体制を整備するための「研修事業」の成功に期待がかかる。
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会・東日本大震災支援プロジェクトPCAT
被災地における医療従事者の減少は地域住民にとって大きな不安となっている。日本プライマリ・ケア学会、日本家庭医療学会、日本総合診療医学会の3学会が合併して設立した応募団体のメンバーは、被災直後から活発に活動を展開している。現地の医療関係者と連携の上、医師・薬剤師・看護師・栄養士・心理療法士ほか様々な医療関係者を、広島をはじめ日本各地から、福島県南相馬市、天栄村、宮城県の石巻市、気仙沼市、陸前高田市、東松島市などの医療機関に延べ480人以上派遣してきた。この連合学会の性質ならではの、幅広い医療分野、地域医療のコンセプトに基づく着実な支援を評価し、今後のさらなる展開を応援したい。本助成金を通じて、今まで築いてきたネットワークを生かし、効果的な支援を行うためのコーディネーターの育成や、その活動の強化を期待する。
団体概要・事業詳細:一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会・日本大震災支援プロジェクトPCAT
特定非営利活動法人 風に立つライオン
応募団体はインドやパキスタンの病院に医師・看護師を派遣するなど、海外での豊富な医療ボランティア実績を有する。また発災後は医師2名がDMAT(災害派遣医療チーム)メンバーとして被災地で救援医療活動を行い、既に地元開業医と「顔の見える関係」を築いている。その経緯もあって、地元開業医や病院からの協力が得やすく、地域の疾病動向を確実に把握できる立場にあり、その点も評価につながった。既存の移動診療車を産婦人科向けに改造した特注巡回診療車を確保することで、主に岩手県陸前高田市周辺で婦人科を中心とした巡回医療を行うのが今回の助成の中心で、公共交通機関の障害により移動手段を失った中高齢者女性のアクセスと医療サービスを同時に提供するところに特徴がある。全国の医療過疎地へのモデル事業ともなる可能性を秘めた人道支援事業として期待したい。
特定非営利活動法人 子どもの村福岡
応募団体は国際的なNGO「SOS子どもの村」の支部として日本で初めて福岡で活動を開始した。虐待など家庭で養育が困難な状況にある子どもを、施設ではなく家庭と同じ環境で育てる「家庭養育」という手法で支援している団体である。震災によって家族を失った子どもたちを、この方法によって支援しようと「SOS子どもの村東北」を設立すべく、現地の行政や児童相談所、里親連合会などの異なるセクター間で情報共有、協働しながら活動をすすめている。福岡で築いてきた経験や活動実績、財界・NGO/NPOなどとの幅広いネットワークが被災地でも活かされることを期待する。あわせて里親の養育支援と普及啓発の2つの軸の新たなモデルが実現することを期待したい。
くらしの再生:復興基盤整備
特定非営利活動法人 ワンファミリー仙台
応募団体は、震災以前からホームレス支援を通じて生活困窮者への就業支援を行ってきた実績を持つ。震災直後から炊き出しをはじめ、いままでの活動のノウハウを活かしてさまざまな救援活動を実施してきた。仮設住宅の生活支援等も実施している。被災により生活に困窮している人々への就労支援事業を展開したいと考え、助成に応募。その内容は、被災地で就業意欲を無くした被災者が増えていることを踏まえ、より身近な仮設住宅において職業紹介所を開設し、職業を紹介する活動。すでにこの団体は職業紹介の資格を有しており、法律的な問題もクリアーして実施できる状態にある。従来から実施している活動のノウハウを充分に活用した取り組みになることを期待したい。
中之作プロジェクト
被災建築を解体するための自治体の助成金が出る中で、被災した古民家を解体することなく、市民ボランティアが補修して再生させ、以前の古き良き街並みを維持していこうとするのが本事業である。築200年の古民家保存を中心とするハードの事業ではあるが、修復された古民家を一つの拠点として、若者を巻き込んだ「コミュニティづくり」を進めていこうとするテーマ性もあり、ソフト面の企画も優れている。団体自体は、比較的小規模であるものの、広報力があり、地元メディアへの露出頻度も高く、地域の様々なステークホルダーや古民家修復支援のネットワークを基盤としていることが伺え、全国の古民家再生事業のモデルに育っていく将来性を秘めている。完全修復には3年程度かかると目されるが、早期に法人化を行った上での事業実施によって、地域の歴史と文化の伝承、および被災後のコミュニティづくりへ大いに寄与することを期待したい。将来は行政との関係づくりも重要になろう。
ピースジャム
応募者は、気仙沼にて被災後、乳幼児のために物資配布の支援を行ったことがきっかけでこの団体を設立。乳幼児のいる家庭や避難所も訪問し、行政にデータを提供するなど、行政との連携にも積極的である。その後、ブログなどのネットワークを活用して支援者をつのり、長期的な支援には、子育てをしながら働ける場所が必要と考えて、手づくり商品の開発と製造をスタートする。乳幼児のいる家庭を支えるためという考えを軸に、本格的に工場を設立するためにこのプログラムに応募。地元の有機農家を巻き込むなど、地域に根づいた活動をしている点が評価につながった。NPOとして立ち上げて間もないためもあって、販売物の販路が十分に確保されていないことなど不安な点もあるが、団体名でもあるピースジャム(平和の共有という意味)の実現に期待したい。
特定非営利活動法人 土佐の森・救援隊
応募団体は、森林ボランティア活動を林業の入り口として位置づけ、山村住民や都市住民の参入しやすい林業を形作り、普及させ、地域雇用の倍増と森林・地域林業および山村の再生を目的として活動してきた。2011年6月からは被災地で「林業大学校」なる実践的な技術研修を始め、岩手県上閉伊郡大槌町の吉里吉里地区で事業を開始した専業3名、副業15名は、既に収入を得始めている。2012年3月まで続く応用・反復の研修を経て、各自が林業家としての独り立ちを目指すのが本事業で、地元の雇用創出につながることが期待される。今後3年は事業を継続し、被災地での雇用1000人以上を目指す計画だが、漁業が中心のため手つかずだった森林資源(特に杉の人工林)を用いることで、長期的雇用が幅広く生みだされる可能性に賭けたい。全国の大学や研究機関との連携体制に加えて、被災地での充実したネットワークも応募団体の強みである。
特定非営利活動法人 まきばフリースクール
応募団体が活動している河北地域は、石巻市の中でも最北部であり、4,000人ほどの人口が震災後に1/3に減少してしまった地域である。その結果、地域の高齢化が加速し、日常的な生活を支えるためにボランティアなどの継続した関わりが必要になっている。震災後は、団体の活動の特徴を生かして、仮設住宅で生活する人たちのつぶやきとしての声を足湯の実施を通じて丁寧にひろったり、こころのケア活動を行ってきた。本活動を推薦する理由は、同じ宮城県内の団体として、震災当時から他の団体と連携しながら、継続的な関わり(支援)が可能であることである。今後はフリースクールとしての特徴やそのノウハウを活用し、地域の再生のための事業展開につなげる活動になることを期待したい。
団体概要・事業詳細:特定非営利活動法人 まきばフリースクール
特定非営利活動法人 気仙沼復興商店街
津波により大きな被害をうけた地域で商店を営む人々は、行政の復興方針の遅れにより、どこに家を新しく建て、どこで商店を再開するのかということが大きな課題となっている。このままでは、商店の廃業が進み商店街としてやっていけない、という懸念からNPOを設立した。商店主と話し合いを重ね、地権者に理解を求め、仮設商店街を開設。仮設商店街では最大規模となる。商店街という地域経済の拠点があるからこそ人の分散化をくいとめることができるとの考えで、さまざまな工夫をこらした取組みを行っている。しかし、仮設住宅で生活する住民にとっては、復興商店街へ出かけようとしても交通手段が殆どない。そこで仮設住宅を巡回するバスを運行するというのが応募の趣旨である。バス運行の継続性が気にかかるが、コミュニティの分散化を少しでもやわらげるために商店街が活用されることを期待したい。
一般財団法人 たんぽぽの家
応募団体は、これまでもアートとケアの視点から多彩なプロジェクトを実施してきており、本事業も、そのような視点で、宮城県山元町の社会福祉協議会をパートナー団体として被災地基盤整備の後方支援活動を行う。中でも、喫茶、地場産品作り、土産物販売などを行うコミュニティスペース「ここさこらいん」の運営支援を重点的に行う方針だが、その際、応募団体の持つ宮城県の各種団体とのネットワークが果たす役割は極めて重要である。これまで培ってきた社会福祉、アート、まちづくりの視点からの総合的な政策提言力にも、期待がかかる。助成中に外部向けフォーラムを企画し、将来的には社会福祉事業として継続性を担保するなど、モデル事業としての発展性を具体的視野に入れている点も評価できる。また商品開発やマーケティングにおいても専門家や企業からの協力を既に得ており、事業の実現性の高さも採択の理由となった。