第1期第2回新規助成(2012年10月1日から1年間)
被災地の変化するニーズに応え、年2回の助成を決定しました。福島の民間による放射能測定の取り組みと有機野菜の販売促進を支援しました。また、仮設住宅の生活困窮者への配食と被災外国人の実態調査を助成しました。
採択事業一覧
団体名 | 事業名 | 活動場所 | 助成額(万円) |
---|---|---|---|
特定非営利活動法人 CRMS 市民放射能測定所 福島 (現:特定非営利活動法人 ふくしま30年プロジェクト) | ホールボディーカウンターによる学生への無料測定と 自主避難者も含めた全国の避難者向け健康相談会の開催 | 福島県福島市 | 720 |
特定非営利活動法人 さんさんの会 | 大船渡市内避難者に対する冬季を重点とした支援活動 | 岩手県大船渡市ほか | 800 |
特定非営利活動法人 福島県有機農業ネットワーク | 風評被害を交流で克服。福島有機農家による 「首都圏チャレンジショップ」 | 福島県及び首都圏 | 868 |
特定非営利活動法人 笑顔のお手伝い | 外国人被災者支援プロジェクト | 宮城県南三陸町・石巻市 | 600 |
概要
助成の趣旨
タケダ・いのちとくらし再生プログラムの一環として、この度の東日本大震災で被災された方々の「いのち」と「くらし」の再生を願い、武田薬品工業株式会社からのご寄付をもとに、被災3県(岩手、宮城、福島県)を主な対象とした民間の支援活動に対して助成します。
助成金額と助成期間
助成1件につき500万円〜1,000万円を2012年10月1日から1年間で助成(最長3年間の継続助成の可能性あり)
助成対象となる活動
- いのちの再生
- 人道支援の視点から、社会的に弱い立場にある被災者(子ども、高齢者、病人、障害者、災害遺児・遺族、経済的困窮者等)が尊厳をもって生きていけるよう、その人権を尊重し、日常生活を支援し、保健・医療・福祉の充実を図る活動。
- くらしの再生
- 復興にむけた基盤整備支援の視点から、被災した人々が生きがいのある暮らしを回復できるよう、生活の場・仕事の場を再建し、生活基盤を整備する活動。なお、これらの活動に関わる調査研究や政策提言活動も対象とします。
応募期間
2012年7月2日(月)〜11日(水)
応募の傾向
応募総数は96件(うち2件が辞退)で、前回の131件には及ばなかった。助成開始時期が下半期ということもあり、年度計画を立てた後の応募となることも応募数の少なさに起因しているかもしれない。テーマとしては、いのちが31件、くらしが65件となった。地域分布としては、被災地三県(岩手、宮城、福島)からが43件(45%)となり、宮城県と福島県がほぼ同数となった。全国を見ると東京都20件(21%)、兵庫県9件(9%)となり、その他の道府県は数件にとどまった。応募総額は約7億1,14万円となり、平均応募額は730万円となった。
法人の傾向としては、NPO法人が55件(57%)と最も多く、それについで任意団体(29件 30%)、一般社団法人(7件 7%)の順となる。
カテゴリー別応募状況
都道府県別に見た応募状況
(※応募があった都道府県のみ記載)
ブロック | 都道府県 | 件数 |
---|---|---|
北海道 | 北海道 | 1 |
東北 | 青森 | 1 |
岩手 | 9 | |
宮城 | 18 | |
福島 | 16 | |
甲信越 | 新潟 | 1 |
関東 | 群馬 | 1 |
埼玉 | 4 | |
千葉 | 5 | |
東京 | 20 | |
神奈川 | 5 | |
北陸 | 富山 | 1 |
東海 | 愛知 | 3 |
近畿 | 京都 | 1 |
兵庫 | 9 | |
九州 | 福岡 | 1 |
被災地3県からの応募状況
県名 | 市町村 | 件数 |
---|---|---|
岩手県(9件) | 大船渡市 | 1 |
盛岡市 | 5 | |
釜石市 | 1 | |
陸前高田市 | 1 | |
滝沢村 | 1 | |
宮城県(18件) | 塩竈市 | 1 |
仙台市 | 10 | |
亘理町 | 1 | |
石巻市 | 4 | |
南三陸町 | 1 | |
栗原市 | 1 | |
福島県(16件) | 福島市 | 5 |
郡山市 | 5 | |
いわき市 | 1 | |
本宮市 | 1 | |
二本松市 | 2 | |
棚倉町 | 1 | |
只見町 | 1 |
法人格から見た状況
法人格 | 件数 |
---|---|
公益社団法人 | 1 |
一般社団法人 | 7 |
財団法人 | 1 |
労働組合法人 | 1 |
特定非営利活動法人 | 54 |
認定特定非営利活動法人 | 1 |
社会福祉法人 | 1 |
学校法人 | 1 |
任意団体 | 29 |
タケダいのちとくらし再生プログラム第2回公募助成
委員長選後評「変わりつつある被災地の課題に、NPOはどう対応するか?」
2012年9月27日
タケダ・いのちとくらし再生プログラム選考委員会委員長
(認定特定非営利活動法人日本NPOセンター顧問)
山岡義典
選考結果
この度、4団体に2988万円の助成を決定した。応募は96件、応募総額は7億114万円だから20倍を超える倍率になった。4月助成の第1回は約10倍であったから、さらに厳しい結果になった。
今回決まった助成対象は別表の通りで、「いのちの再生」と「くらしの再生」で各2件。活動の県別でみると福島県が2件、岩手県、宮城県が各1件となっている。
「いのち」の助成先は、福島県の「CRMS 市民放射能測定所 福島(現:ふくしま30年プロジェクト)」と岩手県の「さんさんの会」。前者は福島県内の学生たちの体内被曝検査を行い、全国の避難者の健康相談を実施する。後者は大船渡市を中心に、食事の提供等、冬季に重点を置いた高齢者等の生活支援の課題を明らかにする。
「くらし」の助成先は、同じく福島県の「福島県有機農業ネットワーク」と宮城県の「笑顔のお手伝い」。前者は県内の有機農家と首都圏の消費者を結ぶチャレンジショップを東京で運営する。後者は県内の外国人被災者の実態を調査し、課題を明らかにする。外国人被災者の課題は他の被災地域にもある。そのモデルとなるような調査研究プロジェクトを期待したい。
選考経過
まず96件すべての応募に対し、今回も1次審査を日本NPOセンターの事務局長はじめとする4人のスタッフが行った。民間の活動としての助成の重要性を中心にABC評価を行い、高い評価の得られたものから順に43件を選出、選考委員による評価の対象とした。委員長を含む7人の選考委員は、そのすべての応募書類を事前に読み込み、同じくABCで評価した。その場合、Aの数は4〜5件に限定することを申し合わせた。
この評価結果をもとに、9月4日の選考委員会で熱心な議論を行い、3件を採択候補、3件を補欠候補、2件を保留とした。そして採択候補と補欠候補の6件について、センターのスタッフが2名1組で現地インタビューに向かった。インタビューでは、委員会でだされた疑問について明らかにするとともに、応募書類だけでは見えにくい活動や組織の実態を確認した。
9月13日にはその結果について報告を受け、委員長決裁で補欠から1件を採択することとし、採択候補3件と合わせて4件を助成対象とすることにした。他の2件の補欠も、それぞれに民間ならではの重要な取り組みであるものの、予算の範囲もあって採択には至らなかった。
なお、前回同様、医療関係者や医療機関が関わる応募案件については、寄付者の武田薬品工業株式会社から参加した委員は事前評価の対象とせず、委員会でも発言をしないこととした。
選考における論点
選考委員会では様々な議論がなされたが、その中でも特徴的なものをいくつか以下にあげておこう。
一つは被災地の現地NPOか被災地外からの応援NPOかということである。この助成プログラムは、助成対象を現地のNPOに限ってはいない。第1回の助成対象にも多くの全国各地からの応援NPOが含まれていた。組織の実力から言えば、応援NPOの方に頼もしいものが多い。しかし着実に育ちつつある現地NPOも増えてきた。その育ちにも期待したい。こうして応援型よりも現地型を優先する声が強く、結果的に助成対象は、いずれも現地NPOになった。現地NPOの力が次第に強まり、その重要性が高まってきているとも言えよう。
もう一つは、福島原発被災者の県外避難者の支援活動をどうするかということである。今回の応募には、そのような企画も含まれていた。応募要項では「被災3県において活動する」と明記しているから、文字通りに読めば、それらは対象にならない。しかし役所を県外に移設しているところもある。そこは県内と同等とみなしていいのでは、との議論もあった。しかしそこまで拡大解釈するのは問題として、次回以降の応募要項で検討することにした。
もう一つは、建築などのハードの建設費用の応募をどうするかという議論である。応募要項の記述からも、また第1回の助成でも対象にしていることからも、助成することは可能である。しかしそれが「いのち」や「くらし」の再建にどのような意味をもつのか、その利用主体や利用内容などの面からももっと検討すべきとの意見が出た。そのような案件もいくつか議論にのぼったが、最終的には今回の対象にはならなかった。
おわりに
この助成プログラムの当初計画では、公募は年1回の予定であった。第1回(4月助成)は1億円の予算で公募したが、応募は予想をはるかに超え、厳しい選考結果になった。そこで多くの要望に早期に対応すべきと、次年度以降の予算を3000万円ほど先取りする形で第2回(10月助成)の公募を行った。しかし今回も予想以上の応募数で、選考はさらに厳しい結果になった。多くの意欲的な応募にお応えすることができなかったことを、心苦しく思う。
2回の選考を通じて、被災地の課題は少しずつ変化し、それに対応するNPOの姿勢や方法も変わりつつあるように見える。第3回の公募は、4月からの助成に対して10月末に開始する。今回採択に至らなかった団体も、時の動きを読み取りながら企画内容を受実させ、再挑戦を期待したい。
選考委員一覧
- 山岡義典(認定特定非営利活動法人 日本NPOセンター)
- 石井布紀子(特定非営利活動法人 さくらネット)
- 大久保朝江(特定非営利活動法人 杜の伝言板ゆるる)
- 金田晃一(武田薬品工業株式会社)
- 長沢恵美子(一般社団法人 経団連事業サービス)
- 藤田和芳(株式会社 大地を守る会)
- 横田能洋(認定特定非営利活動法人 茨城NPOセンター・コモンズ)
いのちの再生:人道支援
特定非営利活動法人 CRMS 市民放射能測定所 福島
(現:特定非営利活動法人 ふくしま30年プロジェクト)
応募団体は、福島の原発事故による放射能汚染に対し、被ばく量を低減するための総合的な支援活動を行うために発災後に設立された。これまで、行政に先立って食品の放射線測定を開始したほか、子どもたちの健康相談会や人体のホールボディ測定など、多様な活動を展開している。特にホールボディ測定については、これまでに子どもや母親を中心に約4000名に対して実施するなど、県内において、民間の立場での測定について一定の位置を築いている。応募事業では、児童生徒や学生に対する測定を無料にすることで測定件数の拡大を図るほか、県外避難者のケアについてもそれぞれの地元団体との連携の下で実施されることで、より効果が上がると判断される。放射能の問題は、さまざまな見解があるが故にデリケートでもあるが、「独立性」「自立性」「公開性」「公平性」を理念に民間レベルで実施される本事業には期待が持てる。
団体概要・事業詳細:特定非営利活動法人 CRMS 市民放射能測定所 福島(現:特定非営利活動法人 ふくしま30年プロジェクト)
特定非営利活動法人 さんさんの会
発災直後、岩手県大船渡市の避難所においてバラバラの場所から避難してきた人たちにあたたかいご飯を配ろうと、地元の料理人を含む有志で始めた炊き出し活動をきっかけに設立された団体である。第2次避難への移行後は、ボランティアとともに仮設住宅やみなし仮設住宅で生活する高齢者を中心に「おかず弁当」を配布。その活動を通じて、食事制限の多い人工透析患者も食べることが可能なおかずを開発し、配食している。応募事業では、家から出る機会が少ない独りくらしの高齢者が部屋にこもりきりになる冬季の支援をベースに、配食を継続する。そしておかずを届ける際の見回り活動を通じて、集積した情報をカルテにまとめ、地縁団体と協力しながら生活支援を行う。また、自ら食事をつくることを促す料理教室を開催、配食の有償化・商品化にも挑戦する。着実に地域に根差した活動に取り組む応募団体が「いのちを支える食」を通じて新たなコミュニティづくりを進める可能性に期待したい。
くらしの再生:復興基盤整備
特定非営利活動法人 福島県有機農業ネットワーク
福島県内の有機農業に関わる農業関係者や消費者、研究者、行政などが連携し有機農業の発展を目指すことを目的とする応募団体は、震災後、農産物の放射能測定をはじめ、農地除染のための講習会の開催、風評被害に抗していくための首都圏での農産物販売とアピールなど、幅広い活動を続けてきている。応募事業は、農産物の販売を含め、福島県の農業の現状を首都圏でアピールすることにより、消費者の理解を得ていく常設の拠点を作るもので、首都圏の市民の協力のもと、当事者自身が生の声を伝えていくことは、震災を風化させないためにも必要だと判断し、助成を決定した。販売にも力を入れていくことから、将来的には自主財源で運営できるようになることも期待される。
団体概要・事業詳細:特定非営利活動法人 福島県有機農業ネットワーク
特定非営利活動法人 笑顔のお手伝い
応募団体は、国際交流活動を通じて外国人妻の生活の問題に注目し、日本語教室の開催などの支援を行っていた。発災後、外国人妻たちは仮設住宅などに避難する生活の中で人間関係がうまくいかず家に居られない、またコミュニティにおいて支援が受けられないなどの課題に直面することを知り、他団体と連携して仮設住宅での見回り・避難者間の交流を促すイベントなどを通じて、生活支援を行ってきた。仮設住宅における避難者の生活が2年目を迎えるにも関わらず、外国人妻たちはますます居場所をなくしている。応募事業では、石巻市・南三陸市において就労支援につながる日本語教室の実施、外国人妻たちの被災状況について聞き取り調査を行い課題の解決に取り組むというもの。被災地における多文化共生をテーマに活動している団体は少なく、阪神・淡路大震災の時の記録がほとんど残っていないことからも、本事業による調査を通じて社会的マイノリティである人々を支える活動の展開を期待したい。