第1期第4回継続助成(2014年10月01日から1年間)
2015年3月に新規助成が終了し、同年4月からの助成では、新規の助成は募集せず、これまで、助成した経験のある団体への継続助成が対象となりました。今回継続助成が採択された団体は6団体。うち5団体が初めての継続助成となりました。助成内容の特長としては、コミュニティビジネス的な要素をもつ事業が目立ち、サービス提供型の事業から財政的にも自立し積極的に雇用創出を目指す事業が採択されました。継続助成を通じて将来的には事業が自立できるよう「組織基盤」の強化と「事業力」の向上を側面支援する取り組みも行われています。市民による復興活動が徐々に進んできました。
採択事業一覧
団体名 | 事業名 | 活動場所 | 助成額(万円) |
---|---|---|---|
特定非営利活動法人 ピースジャム | 拠点を活用した子育てに関わる地域コミュニティの再生・創出事業 | 宮城県 | 800 |
一般社団法人 ワタママスマイル | 被災女性の就労支援と地域高齢者への配食サービス・見守り支援事業 | 宮城県 | 600 |
特定非営利活動法人 仙台夜まわりグループ | 「HELP!みやぎ」相談・フォローアップ継続、中間就労事業継続・発展、新規雇用創出事業開設 | 宮城県 | 600 |
一般社団法人 コミュニティスペースうみねこ | 高白浜ゆめハウスを拠点とした生きがい作りから、長く、楽しく働ける場所作り | 宮城県 | 600 |
一般社団法人 さとうみファーム | わかめ羊肉の六次産業化と観光羊牧場による雇用創出を目指す活動 | 宮城県 | 800 |
特定非営利活動法人 福島県有機農業ネットワーク | 福島の入り口づくり、オルガン堂の販売力・発信力強化 | 福島県内および首都圏 | 560 |
概要
第4回継続助成の選考を終えて-
震災から4年目。継続した支援と同時に自立できる事業支援を!
タケダ・いのちとくらし再生プログラム
選考委員会委員長 早瀬 昇
(認定特定非営利活動法人 日本NPOセンター 代表理事)
選考結果の概要
今回から新規助成がなくなり、2014年10月から始まる第4回継続助成について選考した。本プログラムの助成事業では、2回まで継続助成に応募できる。また、助成期間の延長も認めているので、必ずしも直近の助成事業からシームレスに応募されるわけでもないため、今回の応募には第1回新規、第3回新規、第4回新規、第2回継続のそれぞれの回に助成をした団体からの応募があった。テーマは、新規助成と変わらず「被災地にNPOの知恵と力を」で、〈いのちの再生(人道支援)〉と〈くらしの再生(復興基盤支援)〉の2部門である。
助成額でみると、6件3,960万円となる。部門別では、はからずも〈くらし〉のみとなった。以下、その傾向や特徴を少し詳しく見てみよう。
継続助成については、これまでの事業の成果と課題を踏まえた形で応募事業のプレゼンテーションによる選考を行っている。今回は2014年8月18日(月)19日(火)の両日に仙台で行った。
18日は、第1回新規助成(1団体)、第3回新規助成(1団体)、第2回継続助成(2団体)、19日は第4回新規助成の3団体を選考した。それぞれ各団体から10分間のプレゼンテーションがあり、その後、選考委員による質疑応答を行った。継続助成とあって選考委員もそれぞれの事業内容を理解していることもあり、細部にわたる質問が寄せられた。プレゼン終了後、4つの評価基準(実績への評価、発展・展開性、実現性、予算の妥当性)についての5段階評価と総合評価をしたうえで審議を行った。
単に続けるということではなく、より発展させていくビジョンがうかがえる活動について引き続き助成するという観点から、内容の確認や助成額を検討し、応募された7件全件を助成することになった。その後、事務局で追加的な確認や調査を行い、8月22日に委員長決裁で助成金額を決定した。しかし、1団体から辞退の申し出があったため、最終的には6件を助成することとした。
助成が決定した事業の概要を記すと、1. 拠点を活用した子育てに関わる地域コミュニティの再生・創出事業(宮城県)、2. 被災女性の就労支援と地域高齢者への配食サービス・見守り支援事業(宮城県)、3. 福島の入り口づくり、オルガン堂の販売力・発信力強化(福島県)、4. 「HELP!みやぎ」相談・フォローアップ継続、中間就労事業継続・発展、新規雇用創出事業開設(宮城県)、5. 高白浜ゆめハウスを拠点とした生きがい作りから、長く、楽しく働ける場所作り(宮城県)、6. わかめ羊肉の六次産業化と観光羊牧場による雇用創出を目指す活動(宮城県)であり、宮城県が5件、福島県が1件となった。今回の特長としては、コミュニティビジネス的な要素をもつ事業が目立つ。単なるサービス提供から財政的にも自立し積極的に雇用創出を図っていこうという傾向であろうか。
本プログラムでは、将来的には事業が自立できるよう「組織基盤」の強化と「事業力」の向上を支援する取り組みも続けている。具体的には当センタースタッフが頻繁に現地に出向くとともに、団体同士が相互に学びあい、交流する中間情報交換会の開催や個別の相談にも積極的に応えている。また本報告書や事業終了後の完了報告書を発行したり、東京、大阪などで成果報告会を開催したりすることで、市民に復興への関心を継続してもらうよう努めている。
直接、被災していない地域では、「震災の風化」が指摘される状況だが、被災地は厳しい現実と直面しつつ、一方で市民による復興活動が徐々に進んでいる。この市民の活動を、さらに促進するため、このような取り組みを、今後とも積極的に取り組んでいきたい。
第4回継続助成 選考委員一覧
- 石井布紀子(特定非営利活動法人 さくらネット)
- 大久保朝江(特定非営利活動法人 杜の伝言板ゆるる)
- 金田晃一(武田薬品工業株式会社)
- 長沢恵美子(一般社団法人 経団連事業サービス)
- 早瀬 昇(認定特定非営利活動法人 日本NPOセンター)
- 横田能洋(認定特定非営利活動法人 茨城NPOセンター・コモンズ)
- 山岡義典(認定特定非営利活動法人 日本NPOセンター)
くらしの再生(復興基盤支援)
特定非営利活動法人 ピースジャム
拠点を活用した子育てに関わる地域コミュニティの再生・創出事業
応募団体は、宮城県気仙沼市にて被災後、乳幼児のために物資配布の支援を行ったことがきっかけで活動を開始した。助成1年目の活動では、ジャム作りによる、乳幼児を抱える母親の雇用創出と母親たちのコミュニケーションの場とジャムの工房とを兼ねる場の建設を図ったが、用地取得に手間取り、助成期間を延長することとなった。2014年5月には工房も完成し、当初の活動目的を果たしつつある。母親にとっては職場が就労の場だけでなく育児コミュニティと助け合いの場として機能しているほか、商品開発も順調に進み、ジャムなどの売り上げも拡大している。
今回の継続助成では、安定した商品の供給を通して、売り上げのさらなる拡大を目指し、雇用の確保を継続する。また、工房の周りにカフェや子どもたちが遊べる広場を整備することで、多くの市民が気軽に来られるような空間を目指す。さらにおやこサロンや地域の交流イベントを実施することで、地域コミュニティの拠点となることを期待したい。
一般社団法人 ワタママスマイル
被災女性の就労支援と地域高齢者への配食サービス・見守り支援事業
応募団体は、もともと青年海外協力隊のOBGによって組織された「協力隊OV有志による震災支援の会」として、発災直後から宮城県石巻市渡波地区での炊き出しの活動を始め、避難所内の運営支援や配食活動を行ってきた。助成1年目は、配食事業の新たな拠点づくりとして、「ワタママ食堂」の開設を行い、地域の女性たちの就労を支援してきた。同時に地元スタッフが中心となる今後の活動の土台づくりにも取り組み、新たに「ワタママスマイル」という一般社団法人を設立した。今回の継続助成はこの新法人としての活動となる。
2年目の活動としては、配食対象を拡大することで配食数を増やし黒字化を目指すほか、新規の取り組みとして、地域の関連団体と連携により、高齢者へのお弁当配食を通した見守り活動を実施する。また、食堂にカフェを併設し、地域交流のイベントを行うなど、店舗を活用することで食堂を地域交流の拠点としての位置づけを図っていく。そのほか、生活困窮者への低廉な価格でのお弁当の提供にも取り組んでいく。
食堂運営という女性たちの就労支援から始まったこの活動が、地域コミュニティの拠点としての活動に拡大・変容していく展開を見守っていきたい。
特定非営利活動法人 仙台夜まわりグループ
「HELP!みやぎ」相談・フォローアップ継続、中間就労事業継続・発展、新規雇用創出事業開設
応募団体は、2000年から仙台市内で路上生活者の支援活動を開始し、震災後は、これに加えて炊き出しや物資提供・仮設住宅への入居支援など、総合的な被災者支援活動を実施してきた。助成1年目は、これまでの路上生活者の支援を拡大し、生活困窮者自立支援を主たる目的として、相談センター「HELP!みやぎー生活困窮者ほっとライン」を開設することで、相談から同行支援やアフターフォローまでを行ってきている。
継続助成の2年目は、相談センターの事業を継続するほか、配食や掃除のサービスなど、仕事に向けて訓練をする中間就労の支援や、あらたな雇用創出の場として、フードファーム事業にも取り組んでいく。
被災地の厳しい経済状況の中、路上生活者から、路上を含めた生活困窮者と支援対象を拡大し、事業を展開する団体の使命は大きい。ひとりでも多くの人々に裨益するような活動を期待したい。
団体概要・事業詳細:特定非営利活動法人 仙台夜まわりグループ
一般社団法人 コミュニティスペースうみねこ
高白浜ゆめハウスを拠点とした生きがい作りから、長く、楽しく働ける場所作り
応募団体は、震災前に比べて人口が半減した女川町において、仮設での生きがいづくりと経済的な自立を目指して布草履の制作・販売などを通して、コミュニティの再生に取り組んできた。
助成1年目は、女川町高白浜地区に唯一残った倉庫を修復・整備し、食品加工場兼カフェ「ゆめハウス」として再利用するとともに、その素材・食材づくりとして隣接する果樹園と農園を整備した。いまでは女川町のモデル的なカフェとなっている。
継続助成の2年目は、「ゆめハウス」の事業として魅力あるメニュー開発などに取り組むほか、いちじく、にんにく、唐辛子といった果樹園と農園からの産品を原料とした新規特産物の開発に取り組む。また、ネットショップのしくみを作るなど、若者の参画を促していく。多様な層を事業に巻き込んでいくことで、単なる収入向上事業にとどまらない女川町や高白浜のコミュニティ再生に資する事業となっていくことを期待したい。
団体概要・事業詳細:一般社団法人 コミュニティスペースうみねこ
一般社団法人 さとうみファーム
わかめ羊肉の六次産業化と観光羊牧場による雇用創出を目指す活動
応募団体は、南三陸町で南三陸産のわかめを飼料とする羊を飼育し、新しい観光牧場をつくることで南三陸に新たな観光産業を興すことを目的にしている。助成1年目は、地元住民に協力を要請して借りた土地を開墾し牧場で羊を飼育し、ブランド羊肉として出荷した。更に、第二牧場の開墾に着手した。助成2年目は、BBQ広場とシーカヤックの設置に取り組む。南三陸町や近隣住民の人たちが気軽に立ち寄ることができ、観光牧場になるために滞在時間や滞在機会を増やすための工夫である。県外の観光客の利用者数がどれだけ増えるかいう課題はあるが、この1年で若い有給スタッフの数も増えるなど、大きく事業全体は前進した。代表者の金藤さんは神奈川から南三陸の魅力に気づいて事業を始めた方だ。元から南三陸に住んでいた住民人口が少なくなっていく中で、外からの視点で南三陸のその魅力を着実に形にし、関わる人を増やしていく。その実行力と巻きこむ力によってコミュニティ形成がさらに前進することを期待する。
特定非営利活動法人 福島県有機農業ネットワーク
福島の入り口づくり、オルガン堂の販売力・発信力強化
応募団体は、福島県内の有機農業者、消費者、研究者、行政などが連携し、有機農業の発展を目的として活動している。震災後は農産物の放射能測定や、農地除染のための講習会、風評被害克服のための首都圏での農産物販売など、幅広い活動を続けてきている。
助成1年目に開設した「ふくしまオルガン堂下北沢」は福島と首都圏の交流窓口として注目を集め、首都圏避難者のコミュニティ拠点も担うこととなった。助成2年目は、福島県女性農業者で構成する「オルガン堂女性の会」がオルガン堂に定期訪問し、郷土料理の提供や地域での「収穫感謝祭」の開催など、農産物の安全性だけでない暮らしや食文化の情報交流を通じて、福島と首都圏の人々の関係づくりを進めてきた。
助成3年目は、「顔の見える関係づくり」「福島への入り口づくり」を強化するため、店舗内の精算者紹介や情報提供を充実させ、またニーズの多い出張販売・社内マルシェにも応え、幅広いネットワークを構築していく。今なお続く風評被害の克服に向けて、活動の要であるオルガン堂の安定運営とともに、福島と首都圏の人々の交流が促進されることを期待している。